宿の料理は山菜や野菜をふんだんに使った料理。味、彩り、栄養のバランスを考え、素材の味を味わっていただけるような料理作りを心がけています。初めての食材を手に試行錯誤で作り上げたものや、地元の郷土料理をアレンジしたもの、集落のお母さん達から教わったもの、ソース、佃煮、漬物、デザートも全て手作りです。宿の周辺の野山から摘んできた季節の草花で食卓を彩りながら、お客様の大切なお食事を楽しんで頂けるよう、心を込めておもてなしいたします。
春、宿の周辺の山々からは沢山の山菜が出てきます。一番は雪が融けた所から鮮やかな黄緑色で真っ先に顔を出すふきのとう。オスとメスがあり、この辺りでは苦みの少ないオスが好まれ、薹が立ったものもやわらかいものは酢の物等で美味しくいただけます。約一ヶ月間至る所で採ることができます。
次いで、こごみ、葉わさび、ぜんまいなどが出始め、6月中旬までの間に約30種類の山菜が採れます。中でも珍しい山菜はぶなもやし。他の山菜にはない香ばしさと甘みがあってとても美味しいですが、ぶなの実の豊作の年の翌年にしか姿を見る事ができない貴重な山菜です。
この時期は朝5時から山菜採りに出かけ、下処理と保存を繰り返します。宿の料理でお出しする山菜は全て自分たちで採ったものです。山からのいただきものを無駄にせず、美味しく食べて頂けるように工夫しながら保存します。
山菜の季節が落ち着く頃、桑の実が熟し始めます。桑の実採りは時期を逃すと虫に食べられたり雨で実が落ちてしまうので、何度か様子を見て採りに行きます。採った実は一つ一つ軸を取ってジャムにします。桑の実が終わると、次は岩梨の実が熟します。岩梨とは山地に生息するツツジ科の植物で、岩場に生え、梨のような味のする実をつける事からそう呼ばれています。私達が岩梨を知ったのは、秋山郷の蜂蜜屋さんから岩梨の実の焼酎漬けをいただいた事からでした。昔は子供達のおやつとして食べられていたそうです。今は料亭などで出される貴重な食材の一つになっています。一つ一つ皮をむいて焼酎へ漬けておき、料理やデザートに使います。
料理に使う野菜は、5〜6軒の直売所に足を運んで、新鮮な野菜を選んで買ってきます。南瓜や茄子は10種類以上、夕顔、糸瓜、冬瓜などの伝統野菜、カラフルなふだん草やビートなどの珍しい野菜が手に入ります。津南町特産の雪下人参、アスパラ、トウモロコシは肥沃な土と寒暖の差がある気候で栽培されているため、どれも美味しいです。
自分たちで出来る範囲で野菜作りをしています。集落の人から色々と教わりながら農作業。育って行く野菜達を見ているとわくわくします。獣の被害に遭わずに無事に収穫出来た時の喜びはひとしおです。
元学校だったかたくりの宿。集落の方々はほとんどが卒業生です。皆、宿の事を気にかけてくれていて、多く採れた野菜や、採ってきた山菜やきのこなどを惜しげも無く分けて下さいます。